
人物
理工学部機械工学科2年生。入学当初からSophia Racingに参加。
パワートレイン班として車両の動力であるエンジン部の構成に携わる。
学生フォーミュラに対する知識

そもそもフォーミュラSAEの知名度は、ここ日本においては残念ながら圧倒的に低い。世界最高レベルの技術力を持った有数の自動車王国でありながら、欧米諸国に比べモータースポーツに対する興味が薄く、各自動車メーカーも頭を悩ませているところである。企業ではなく学生側からのアプローチということで、自作のクルマを走らせるFSAEというのは貴重な機会であり、素晴らしい試みなのだが、まだまだ認知度と言う意味では発展途上と言わざるを得ない。
彼自身も「ここでフォーミュラカー作ってるサークルが結構スゴいらしいって聞いたんだけど、別に入ろうって思ってなかったし、新入生勧誘の時もブースは見に行かなかった」と語る。
彼が今までほぼ接点の無かった「クルマ創り」と交わるきっかけとなったのは、たまたま気が向いて行ったSophia Racing新歓の飲み会で出会った、先輩のチームメンバー達との会話であった。そこには高い目標を目の前にして熱く語る人達がいた。
「ただの趣味の延長での活動ではなく、本気で自分達がどこまで通用するのかを試したい。
日本、いや世界で勝ちたい!」と。
「すげぇな、って思っちゃったよね」
彼らを動かしているモノを見てみたい、情熱の源を知りたいという好奇心が入部の動機となった。
体験を通じて得られたモノの価値

クルマの心臓部である動力機関。彼はその吸排気系の仕事にパワートレイン班として深く携わる。マフラーの開発やエンジンのチューニングなど、彼に託された仕事と期待は大きい。機械工学科とはいえ、1年生後半からいきなり車両開発の最前線で働くということにプレッシャーは無かったのだろうか?
「やっぱり、手を動かさないと覚えないんじゃないかと。(学科での授業で学んだ)勉強を実践に活かそうって。先輩から伝えられたことだけれど、知識っていくら勉強しても使わなければ知識のまま。知識をいかに使えるか、経験としてモノにできるか、ってことに価値があると思う。それを実践するのにすごく良い現場だったから」と言う。
サークルに参加してからずっと積極的に現場に関わり、生きた「経験」を着実に積み重ねてきたその言葉には、深い信念が感じ取られた。
世代交代への不安と希望

今のサークルで主に陣頭指揮をとっているのは経験豊富な上級生達だが、9月の日本大会が終了すれば、活動の主体は新世代のメンバー達へと移る。引継ぎ後は、新設計するマシンに自分達のコンセプトを取り込むことができるようになり、自分たちがやりたいことをカタチにできる楽しみもあるが、その反面それと同時に責任も大きなものとなる。
「特に入部した段階ですごく強かったチームだから、今バリバリやってる先輩達が抜けちゃって、レベルが下がった、なんて言われたら大変。先輩達が築き上げた技術と熱意を引き継いで、さらに自分達の特色も出すことが目標。もっともっと上を目指せる力を身につけたい」と静かに、しかし熱のこもった声で決意を語った。
走行会で他校のチームと関わりあう機会があれば、積極的にライバル車両の設計者にも質問し、議論を交わす彼の姿が頻繁に見られた。その貪欲に学ぼうとする積極的な姿勢は、常に上を目指すという向上心の表れだ。
大きく人材が入れ替わる時期ということで、チームとしてはメンバーを随時募集しているが、高度な技術が求められる現場とはいえ、欲しい人材は「普通にしゃべれて性格の出来た人」。高度な技術は実践で学べばいい、個人競技ではなくチームとして一つの目標に向かっていくだけに、コミュニケーション能力がある人が向いている、と言うことだ。
世界を識る、そして日本大会へ

7月12〜15日に行われたFormula Student 2007(イギリス大会)で「世界」に挑んだSophia Racing。総合順位が69位中15位という結果で終わったが、海外のチームと直接触れ合ってきた感想は「やっぱり世界って速い」ということだった。
しかし、雲を追いかけるような夢物語としてチャレンジしたのではなく、確固たる結果を出すために綿密に準備をしてきたのだ。「着実に前回挑んだときよりも差が縮まっていることも同時に実感した」と語る言葉は力強い。
9月の日本大会ではそこで得られたものをどのように発揮できるか、周りの期待も大きい。しかし、結果を出すために出来ることは、丁寧にセッティングを煮詰め、より速いマシンに仕上げていくことだけ。勝つため特別なことなことなんてない。毎日地味に積み重ねてきたものの延長に勝利が見えてくる。そのことをきっと証明できるはずである、ということを、彼のチームに対する真摯な姿勢を見て、そう確信することが出来たのだった。
(安藤)